
理工学部理工学科化学コース
芝﨑 祐二
高分子科学
岩手大学理工学部化学コース、科学技術イノベーション推進ラボ「グリーン表面界面ナノ工学ユニット」の芝﨑祐二らの研究グループは、生分解性ポリマーであるポリ乳酸の星型高分子化合物を設計?合成し、光学活性高分子の溶液混合法により対応するステレオコンプレックスミクロ粒子の調製法を確立しました。さらに、このミクロ粒子内にクルクミンを固定化し、長期的に放出可能なドラッグデリバリーシステムの構築に成功しました。
本成果により、高分子型ドラッグデリバリー分野の課題であった薬物積載制限の緩和や、脂質ドラッグデリバリーシステムに勝る安定性の獲得が可能となり、薬物の安定的な長期放出が実現しました。将来的には、薬剤の高頻度投与が不要となり、患者のQOLを大幅に向上させることが期待されます。
クルクミンはin vitro試験や動物試験において抗アミロイドβ凝集抑制、抗酸化や抗がん、脂質代謝改善などの多くの有用な生理活性を示す可能性が報告されています。しかし、クルクミンを経口摂取しても、その多くは腸を経由して体外に排泄されてしまいます。たとえば、500?mg/kg分のクルクミンをラットに経口投与し、投与3時間後の血漿中クルクミン濃度を液体クロマトグラフ–タンデム型質量分析計(HPLC-MS/MS)で測定すると、約29?nMの濃度まで低下することが知られています。したがって、クルクミンなどの有用薬物を効果的に体内に取り込む手法の確立が求められていました。ドラッグデリバリーシステムは薬物送達の高効率手法として、両親媒性高分子化合物や脂質化合物などの様々なカプセル化材が開発されてきました。しかしながら、前者は粒子内部に疎水性高分子セグメントを有することから、カプセル内への薬物導入量に大幅な制限があり、後者は脂質二分子膜からなるベシクルを形成可能で内部に非常に多くの水溶性薬物を包摂できる一方で、in vivoでのカプセルの安定性が非常に低いという問題がありました。
これらを解決するための一つの提案として、研究グループでは生体適合性ポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶からなる多くの空隙を有するミクロ粒子の製造法を開発し、その空隙に高濃度のクルクミンを安定的に導入し、皮下注射用薬剤を開発することを目的としました。
ミクロ粒子の空隙率を最大化するため、中心分子としてマンノースを選択し、5本鎖からなる星型ポリ乳酸を合成しました。これらの光学活性体を溶液中で混合することで、空隙を有するポリ乳酸ステレオコンプレックス結晶(scPLA)を得ました。scPLAは球状で、1.0~2.2μmの直径サイズを有し、粒径分布の揃った均一なカプセルとなりました。空隙内にクルクミンを導入するため、溶液法を用いました。その結果、ステアリルポリエチレングリコール(stPEG)を助剤とすることで、最大で14wt%もの薬剤の導入に成功しました。この薬剤は、同様にクルクミンを導入した従来型のmPEG-PLA共重合体ナノ薬剤と比較して、圧倒的な薬物放出持続性に優れていました。
本研究は、皮下注射用ドラッグデリバリーミクロカプセル剤の開発を行い、薬剤保持割合を従来型のナノ粒子高分子カプセルの限界値である10%を超える14wt%を達成しました。さらに、薬物の初期バーストを制限可能な長期安定薬物カプセルを実現しました。今後は、薬剤導入割合をさらに向上させつつ、薬物放出速度を任意に調整可能なシステムの開発を目指してまいります。
【掲載論文】
題目:Preparation of curcumin-loaded microparticles from star-shaped poly(lactic acid) stereo-complex
著者:A. Kawamura、 T. Ishihara、 M. Terasaki、 T. Sago、 T. Tsukamoto、 Y. Shibasaki
誌名:Polymer
公表日:2026/2/2
本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(C)「酸化重合による水溶性ポリアルブチンの両親媒性化とカプセル化に関する研究」(JP 18 K05211)研究代表者:芝﨑祐二
?(独)JST A-Step「ポリ(アルブチンーエチレンイミン)共重合体(PArb-PEI)と銀ナノ粒子複合体合成による農業資材用抗酸化、抗菌?抗ウイルス化塗布技術への展開」(VP29117938435)研究代表者:芝﨑祐二