非負テンソルのペロンベクトルのもつ数学的性質を証明

掲載日2024.03.05
最新研究

理工学部 物理?材料理工学科 数理?物理コース
教授 宮島信也
行列解析、数値解析、数値計算

概要

岩手大学 理工学部 物理?材料理工学科 数理?物理コース 宮島信也教授は、非負テンソルのペロンベクトルのもつ数学的性質を新たに発見し、それらを証明しました。また、証明した性質の内のいくつかを応用することで、ペロンベクトルを含む区間をコンピュータ上で求める手法を確立しました。本研究成果は、凤凰体育平台6年4月15日にエルゼビアが発刊する著名な国際学術誌Linear Algebra and its Applicationsより全世界へ公開されます(本研究論文は、エルゼビアが運営するページScience Directにおいて、先行公開されています)。

背景

理工系の学部では、1年次の数学の授業で行列という値について学びます。これは実数または複素数を縦と横に並べたものです。以後、並べる実数または複素数のことを成分と呼びます。縦に並べる成分の個数と横に並べる成分の個数が同じとき、その行列は見た目が正方形のようになるので、正方行列と呼ばれます。正方行列の中でも、並べられている成分がすべて0以上の実数であるとき、その行列は非負行列と呼ばれます。非負行列はペロン根と呼ばれるスカラーとペロンベクトルと呼ばれるベクトルをもっています。これらの値は非負行列の特性を理解するのに重要な役割を果たしますが、与えられた非負行列から簡単に求められるものではありません。

表題に書かれているテンソルとは、行列を拡張したものです。行列は縦、横の2方向に成分を並べたものですが、テンソルは2以上の方向に成分を並べたものです。例えば、行列は2次テンソルですし、縦、横に加えて上に成分を並べたものは3次テンソルです。4次以上のテンソルについては、図形的な解釈は困難ですが、数式により表すことはできます。テンソルでも、並べられている成分がすべて0以上の実数であるとき、そのテンソルは非負テンソルと呼ばれます。行列の場合と同様に、非負テンソルはペロン根と呼ばれるスカラーとペロンベクトルと呼ばれるベクトルをもっています。非負テンソルのペロン根とペロンベクトルには数多くの応用があります。例えば、ページランク、グラフ理論、マルコフ連鎖では、非負テンソルのペロン根とペロンベクトルが求められます。しかし、行列の場合と同様に、これらの値は与えられた非負テンソルから簡単に求められるものではありません。

宮島教授の過去の論文において、非負テンソルのペロンベクトルの一部はある多重線形方程式(複数のテンソルとベクトルとの積の和で構成される方程式。多項式方程式のベクトル版)の解であることが発見されました。しかし、例えば以下については未解明のままでした。

  1. 「非負テンソルのペロンベクトルの一部はある多重線形方程式の解」の逆は成り立つのか?すなわち、その多重線形方程式の解を基に非負テンソルのペロンベクトルを構成できるか?
  2. その多重線形方程式の最高次の係数(テンソル)は何らかの数学的構造をもっているのか?
  3. 非負テンソルの一部の成分の値を大きくしたテンソルのペロンベクトルと元の非負テンソルのペロンベクトルとの間に、何らかの関係があるのか?

研究成果

本研究では、1.~3.の回答として、次の数学的性質を証明しました。

(1.の回答)逆は成り立つ。すなわち、その多重線形方程式の解を基に非負テンソルのペロンベクトルを構成できる。さらに、具体的な構成方法も分かる。
(2.の回答)最高次の係数テンソルはM-テンソルと呼ばれる構造をもっている。この構造は多重線形方程式を解きやすくする性質をもつ。
(3.の回答)一部の成分の値を大きくしたテンソルのペロンベクトルの各成分は、対応する元の非負テンソルのペロンベクトルの各成分よりも小さい。

1.と3.の回答については、テンソルどころか行列においても知られていなかったことです。加えて、これらの数学的性質以外の新たな性質も発見し、それらの証明を与えました。さらに、証明した性質の内のいくつかを応用することで、ペロンベクトルを含む区間をコンピュータ上で求める手法を確立しました。これらの成果はエルゼビアが発刊する著名な国際学術誌Linear Algebra and its Applicationsに掲載されました。

掲載論文

題目: Some properties concerning Perron vectors of weakly irreducible nonnegative tensors, and their application to rigorous enclosure
著者: Shinya Miyajima
誌名: Linear Algebra and its Applications
公表日: 15 April 2024

本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省科学研究費補助金?基盤研究(C)「非整数階微分方程式系の解に対する精度保証付き数値計算法の研究」研究代表者:宮島信也

本件に関する問い合わせ先
理工学部  物理?材料理工学科 数理?物理コース  教授 宮島信也
019-621-6303
miyajima@iwate-u.ac.jp