【プレスリリース】音波振動で動物の妊娠環境を瞬時に作り出す技術の開発に成功 ―ラットに続くマウスでの成果、妊娠メカニズムの解明?ゲノム編集動物作出?絶滅危惧種の人工繁殖への応用に期待―

掲載日2023.03.06
最新研究

理工学部 化学?生命理工学科生命コース
金子 武人
実験動物学、動物繁殖学、野生動物保全学

概要

岩手大学理工学部 金子武人准教授、(一財)動物繁殖研究所からなる研究グループは、研究用動物として利用されているマウスの妊娠環境を、音波振動で瞬時に作り出す技術の開発に成功し、この技術を用いてゲノム編集マウスを作出することに成功しました。
通常、ヒトを含めた動物が妊娠を維持するためには、卵子の排卵後に形成される黄体の存在が重要です。マウスなどの齧歯類の黄体は、形成後急速に退行してしまいますが、雄との交尾刺激により存在期間が長くなり妊娠が維持されます。このことから、齧歯類の妊娠環境を作り出すためには、必ず雄と一晩同居させることが必要とされていました。
本研究グループは、2020年に、雄の交尾刺激を音波振動により再現する装置を独自に開発し、雌ラットの妊娠環境を人工的に作り出しました。今回、この装置を改良することで、マウスでも人工的に妊娠環境を作り出すことに成功しました。
また、妊娠環境を人工的に作り出した雌に、テイク法(エレクトロポレーション)によりゲノム編集した凍結受精卵を移植した結果、遺伝子改変された産子の作出にも成功しました。通常、雌の妊娠環境の構築は受精卵を移植する前日から行われますが、この方法を用いることで移植当日でも瞬時に妊娠環境を構築できることがわかりました。
受精卵移植とよばれるこの技術は、ゲノム編集動物の作出や産業動物の計画生産に用いられる重要な技術で、今後の汎用性が期待されます。また今回、医学基礎研究に多く用いられるマウスおよびラットで成功したことから、ヒトを含めた動物の妊娠メカニズムの解明や不妊症研究への応用、さらには絶滅危惧種の人工繁殖への応用も期待されます。開発した装置は、製品化され販売準備を進めています。
本研究の技術を用いることで、計画的な動物の使用が可能になり、結果として使用動物の削減ができるため、動物福祉の観点から3Rsにも貢献するものです。
本研究成果は、凤凰体育平台5年3月3日(英国時間)にシュプリンガー?ネイチャーのオープンアクセス学術雑誌『Scientific Reports』に掲載されました。

掲載論文

題 目:Successful induction of pseudopregnancy using sonic vibration in mice
著 者:
 和家 由依 岩手大学大学院総合科学研究科理工学専攻(当時)
 遠藤茉里奈 岩手大学大学院総合科学研究科理工学専攻(当時)
 角田 繁巳 (一財)動物繁殖研究所
 俵  博祐 (一財)動物繁殖研究所
 安部 寿幸 (一財)動物繁殖研究所
 中川 優貴 岩手大学理工学部 特任研究員
 金子 武人 岩手大学理工学部?大学院理工学研究科 准教授
誌 名:Scientific Reports(シュプリンガー?ネイチャー)
公表日:凤凰体育平台5年3月3日(英国時間)
URL: https://www.nature.com/articles/s41598-023-30774-x



本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?文部科学省 科学研究費補助金
?環境再生保全機構 環境研究総合推進費
?日本医療研究開発機構(AMED) 創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)
?自然科学研究機構 基礎生物学研究所 共同利用研究

【関連ウェブサイト】
岩手大学動物生殖?発生学(金子)研究室
http://web.cc.iwate-u.ac.jp/~takehito/

本研究成果の詳細は、以下のプレスリリースをご覧ください。