持続可能な社会の実現に向けた可視光応答型酸化物半導体の創製と機構解明の研究

掲載日2023.01.30
最新研究

理工学部数理?物理コース
松川倫明
材料科学?物性物理学

岩手大学理工学部ではソフトパス理工学の理念のもとに持続可能な社会の実現に向けて科学技術の新たなイノベーションの創出を目指しています。

光触媒物質は、光を照射することにより水を分解して水素を生成するので、水素エネルギー循環型社会の構築に必須のものです。また、この物質には、環境浄化やウイルスなどの有害物質を弱毒化するなどの働きがあります。現在空気清浄機などに実用化されている酸化チタンは、太陽光下では十分な機能を示さないことが知られているので、新規の光触媒材料の創製が望まれています。この材料は、太陽光パネルで使用されている電池やデータ保存に使用するフラッシュメモリーなど身近に使用されている電子機器の心臓部にある半導体とおなじ性質をもっています。

数理?物理、電気電子通信及び化学コースの研究者から構成される分野横断的な研究グループによる新規な光触媒半導体の創製とその機構解明に関して最近の研究成果を紹介します。

研究成果の概要

高温超伝導を示す物質と類似のペロブスカイト構造を有する希土類酸化物半導体をサイトレイト法(参考文献1参照)とよばれる特殊な手法により合成し、高い光触媒特性を示すことを明らかにしました。特に、光触媒半導体のバンドギャップを元素置換により制御することで、酸化型のものから水素を生成する還元型の光触媒特性を示す物質を得ることが可能となりました。(掲載論文及び参考文献2参照)光触媒物質の組成の最適化には、人工知能(AI)のアルゴリズムとしてよく利用されている機械学習の手法を適用しています。また、第一原理計算の手法(参考文献3)を適用して、希土類酸化物のペロブスカイト構造から光触媒特性に適したバンド構造を推定しています。光源は太陽光に類似したスペクトルを有するXeランプを使用した光照射によるメチレンブルー溶液分解実験については、環境汚染物質除去のシミュレーションとして考えらており、2時間程度でほぼメチレンブルー溶液は光触媒粒子との反応により完全に分解しました。酸化型と還元型の2つの特徴を有する物質を組み合わせハイブリッド化することにより、水分解による水素生成や有害物質の除去を効率的に実行できると期待されます。最近は、植物の光合成機構と類似しているZスキーム型ペロブスカイト系光触媒複合薄膜の研究に取り組んでおり、触媒特性の向上が見出されています。

掲載論文

題 目:Enhanced photocatalytic activities under visible light of double-perovskite oxide semiconductor Ba2Tb(Bi,Sb)O6 with mixed-valence
著 者:ダヤル?チャンドラ?ロイ 理工学研究科博士課程2年
    松川 倫明 理工学部数理?物理コース 教授
    米内 孝徳 理工学専攻数理?物理コース修士課程2年
    荒木田南実 理工学専攻数理?物理コース修士課程1年
    谷口 晴香 名古屋大学工学部?講師(理工学部?元助教)
    西館 数芽 理工学部電気電子通信コース 教授
    會澤 純雄 理工学部化学コース 准教授
    松下 明行 物質?材料研究機構 名誉研究員
    Lin Shiqi 物質?材料研究機構 研究員
誌 名:J Mater Sci: Mater Electron (2023) 34:281
公表日:凤凰体育平台5年1月25日
URL: https://link.springer.com/article/10.1007/s10854-022-09542-6

参考文献
1. T. Senzaki, M. Matsukawa,T. Yonai, H. Taniguchi, A. Matsushita et al. , Chap. 9. In: Functional Materials Synthesis and Physical Properties, ed by M. Bartoli (IntechOpen, 2022). https://doi.org/10.5772/intechopen.100241.
2. A. Sato, M. Matsukawa, H. Taniguchi, S. Tsuji, K. Nishidate, S. Aisawa et al, Solid State Sci. 107,10635-1-7 (2020)
3. K. Nishidate, A. Adiko, M. Matsukawa, H. Taniguchi, A.Sato, et al., Mater. Res. Express 7, 065505-1-8 (2020)

本研究は、以下の研究事業の成果の一部として得られました。
?科学研究費助成事業19K04995?基盤研究(C)「可視光応答型ダブルペロブスカイト半導体薄膜の高機能化と光触媒物性の解明」(研究代表者:松川倫明)
?科学研究費助成事業21K05140?基盤研究(C)「第一原理計算によるダブルペロブスカイト型光触媒の研究」(研究代表者:西館数芽)

本件に関する問い合わせ先
理工学部数理?物理コース  教授 松川倫明
019-621-6358
matsukawa@iwate-u.ac.jp